「北限のお茶」への挑戦 「北限のお茶」への挑戦

「北限のお茶」プロジェクト始動


8世紀半ばに記された世界初のお茶の本『茶経』が「茶は南方の嘉木なり……」と始まるように、本来、茶樹は温暖な気候を好む植物です。一般的に日本の茶樹栽培の北限は東北地方といわれています。しかし、ルピシアでは近年の品種改良の成果や栽培などの技術を駆使し、北海道・ニセコ産のお茶の収穫を目標に2015年6月、小さな茶園を開墾しました。

雑草を刈り、固い土を掘り起こし、5種42本の茶樹の苗木を植えました。宮崎県五ヶ瀬と埼玉県狭山、二つの茶産地から耐寒性の強い品種の茶樹を選びました。中には、五ヶ瀬の山中に自生する樹齢100年を超える老茶樹も。農林水産大臣賞など多数の受賞歴を持つ五ヶ瀬の釜炒り茶の巨匠、興梠(こうろぎ)洋一氏と奥様の指導の下、大切に植樹しました。翌年7月の新茶の収穫が目標です。

「北限のお茶」プロジェクト始動

初めての冬


来たる冬に備え、2015年10月中旬に茶樹の冬支度を行いました。ニセコの冬はマイナス20度を超えることがある極寒地。寒さ対策として、茶樹全体を藁で覆う伝統的な防寒対策を施しました。

茶樹にとっては試練の冬を越えて、無事に春を迎えることができたのは42本中17本。半分以上は残念ながら、生き延びることができませんでした。植樹した5種のうち、「さやまかおり」など特に耐寒性が強いものが初めての冬を越すことができました。

初めての冬

2年目の方向転換


ニセコでの初めての冬を越した17本の茶樹はその翌年も越冬し、確かに土地に根付きました。しかし、大きな問題に直面したのです。生育環境の厳しさのためか、苗から育てたお茶の木からはお茶として飲むことができる新芽がほとんど成長しませんでした。

最初の開墾から2年目となる2017年、大きな方向転換を行いました。静岡の茶園に協力いただき、ニセコでの生育状態がよかった品種「さやまかおり」の成木7本を入手。新たな茶畑に移植しました。そして越冬方法も、藁で覆う伝統的なものから、茶樹ごとにポールを立てて白い布で囲む小さなテント状の覆いに変更。これにより、雪の中でも光を取り入れ、光合成が可能になると考えました。

寒さが本格的になる11月中旬からおよそ半年間、雪の中に埋もれて過ごした茶樹は、6月の雪解けとともに1本も枯れることなく、元気な姿を現しました。また、その量はわずかですが春の日差しに照らされてエメラルド色に輝く新芽をもたらしてくれたのです。

2年目の方向転換

5年の歳月を経て待望のお茶が完成


2020年6月18日。宮崎県五ヶ瀬の巨匠、興梠洋一氏の指導の下、待望の茶摘みを始めました。高さ1mほどに成長し、元気に茂る「さやまかおり」から、一芯二葉(新芽とその下の2つの葉)を慎重に摘み取ります。樹勢が衰えないよう気を付けながら進めていきます。越冬のためのテントを通した淡い光の中、低温の環境でゆっくり育った茶樹の葉は、シルクのように柔らかく繊細な手触り。

7株から集めた、小さめのボウル1杯ほどの貴重な茶葉を、日光にさらして萎れさせた後、籠の中で揺さぶり、暗所で寝かせるなどの作業を繰り返します。これは、興梠さんがここ数年、研究を重ねてきた台湾の銘茶「文山包種(ぶんざんほうしゅ)」の製法を活かしたもの。お茶本来の風味を引き出すためにこの製法を選びました。

お茶と向き合ってきた巨匠ならではの判断で、萎凋(いちょう)した茶葉を短時間蒸して殺青(さっせい・酸化発酵を止めること)を行い、手もみした後、熱したホットプレートで水分を飛ばして茶葉の完成です。これは、九州の蒸し製法による玉緑茶のようなやり方で仕上げました。

その量は、わずか12.5g。残った茎を集めて一緒に完成したほうじ茶4.6gと合わせて、合計17.1gのお茶を収穫しました。「北限のお茶」プロジェクトが始動して5年。待望のお茶でした。

5年の歳月を経て待望のお茶が完成

「北限のお茶」を味わう


2020年7月某日。茶葉が東京の事務所に運ばれ、ルピシアの各部署から集められた精鋭たちがテイスティングを行いました。

見た目は台湾の銘茶「文山包種」風で、深い緑色をした薄く大ぶりな茶葉。お湯を注ぐと、日本茶ではあまり嗅いだことのない甘く力強い芳香が部屋中を満たしました。各々、そうっと口を付けます。「繊細だけど力強い。高級茶らしい貫禄がある」「雪の下でほぼ半年を過ごしている茶樹。雪を通した淡い光の中生き延びたことが、柔らかな甘みと、強靭な生命力の同居する風味を生み出している」「2煎目はさらに透明感のある洗練された味わい。でも強くのびる余韻が素晴らしい」と絶賛の声が次々と上がりました。5年の歳月を経て、初めて口にした「北限のお茶」は他のお茶とは違う感動をもたらしてくれました。

「北限のお茶」を味わう

「北限のお茶」の挑戦は続く


5年の歳月を経て、ようやく完成した「北限のお茶」。しかし、これで終わりではありません。新しい品種の植樹や、オリジナル品種の開発、苗木からの栽培など、挑戦したいことは次から次へと湧き出てきます。

2020年8月6日。宮崎県五ヶ瀬の巨匠、興梠洋一氏が有機農法で育てた茶樹の苗木24本をニセコの茶畑に新たに植えました。甘く清涼感のある香り立ちが魅力の品種「香駿」が、「ニセコの土で育つことでどのように香りが変化するか楽しみ」と興梠さんは目を輝かせます。越冬の方法も新たなやり方を試すつもりです。今は30㎝ほどの小さな苗木が一年後、どのような姿を見せてくれるのか。「北限のお茶」への挑戦にご期待ください。

「北限のお茶」の挑戦は続く